婚約破棄に対する慰謝料は認められますか?
婚約の破棄に関する相談を受けることがあります。婚約が成立している場合、婚約者や婚約者の浮気相手に対して、慰謝料の請求などが認められるのでしょうか?その法的構成や認められる損害等について、裁判例を交えながらまとめました。婚約破棄に悩んでおられる方は、一度ご相談をご検討ください。
1 婚約の法的性質について
婚約とは、男女が誠心誠意、将来夫婦となる合意をすれば成立するものであり(大判昭和6年2月20日新聞3240号4頁)、当事者間における合意とされています。
結納や婚約指輪の交換などの儀式は、当事者間の婚姻の意思を外形的に示すものとして、婚約の成立を証明する一つの事実となります。
2 婚約者に対して損害賠償義務を負う場合と損害内容
(1)婚約が破棄された場合
婚約により、当事者は婚姻の成立に向かって動き出し、成立に向けた準備を進め、また婚約をきっかけに性的な関係を持つこともあるため、一方的に婚約を解消された場合、一方当事者は精神的に傷つき、また準備のために係った費用などの財産的損害が生じます。
そして、正当な理由のない婚約不履行については、生じた損害について婚約不履行の責任として賠償が認められる場合があります。
(2)婚約不履行に伴う損害賠償義務
ア 法的根拠
当事者間の合意である婚約の不履行として債務不履行に基づく損害賠償請求と、婚約者としての地位を侵害した不法行為としての損害賠償請求の両方の法的構成を判例は認めています。
相手の責任で婚約を解消せざるを得なかった場合に、解消した者から相手方に対する損害賠償も認められます(最判昭和27年10月21日民集6巻9号849頁)。
イ 正当な理由の判断基準
婚約解消の正当な理由について、判例は、性格の不一致、容姿に対する不満、年回り、親の反対などでは不十分とする傾向にあります。
ウ 婚約解消に正当な事由がないとして、損害賠償請求が認められた事例
①東京地判平成26年3月28日
…男性が婚約者以外の女性と交際を始めて婚約を解消した事例
②東京地判平成24年6月5日
…妻の存在を隠して婚約し性的関係を持ち、それが露見して婚約解消した事例
(3)損害賠償の範囲
ア 精神的損害としての慰謝料
精神的損害については、婚姻していることを隠したり、妊娠中絶(①判例では200万円)や妊娠出産をさせたり、挙式の翌日に婚姻の届出を拒否し、数日後に別居となった場合、婚約の履行に向けて退職して転居した場合(③東京地判平成25年6月7日では200万円)などの事情があれば、ある程度高額になる傾向があります。
イ 財産的損害について
財産的損害については、民法418条を類推適用し、婚約解消の責任割合に応じて賠償を認める裁判例もあります。
・結婚式場の申込金・キャンセル料
・新婚旅行の申込金・キャンセル料
・ウェディングドレスの購入代金
・披露宴招待状の発送費用
・挙式・披露宴費用
・家庭用品の購入費用
・婚約解消に伴う転居費用
・新居用マンションの敷金・礼金・手数料・解約金
ウ 認められない損害
・勤務先退職による逸失利益(過去に認めた裁判例もあるが、近時の裁判例は慰謝料算定の考慮要素とするものが多い)
(4)第三者の責任が認められる場合
第三者が婚約の履行に不当に干渉、妨害して解消に至らせた場合は、その第三者も婚約解消の共同不法行為として損害賠償責任を負う場合があります(最判昭和38年2月1日民集17巻1号160頁)。
3 婚約中の浮気は損害賠償債務を負うか
(1)婚約当事者について
ア 婚約関係にある者同士の間で貞操義務は認められるか
婚約関係にある者も互いに貞操義務を負うとされています。
参考裁判例:大阪高判昭和53年10月5日(※事案自体は不貞相手に対する損害賠償請求の事案)
貞操義務を否定した原審を変更し、「婚約当事者は互いに一定期間の交際をした後婚姻をして法律、風俗、習慣に従い終生夫婦とし共同生活することを期待すべき地位に立つ。婚約は将来婚姻をしようとする当事者の合意であり、婚約当事者は互いに誠意をもつて交際し、婚姻を成立させるよう努力すべき義務があり(この意味では貞操を守る義務をも負つている。)、正当の理由のない限りこれを破棄することはできない。婚姻はその届出と届出時における真意に基づく婚姻意思の合致によつて、成立するから、婚約当事者の一方が婚姻意思を失ない、婚約を破棄したときは、他方は婚約の履行として届出を強制することはできず、正当の理由がなく婚約を破棄した者に損害賠償を請求しうるにすぎない。」旨判断しました。
イ 婚約者の不貞行為について判断した裁判例
①東京地判平成27年11月19日
一方当事者が婚約後に定職に就かず、不貞行為に及んだことを持って、「原告が被告との婚約を解消せざるを得なくなったのは、上記の被告の不誠実な行為がその原因であるといえ、上記の被告の行為は原告に対する不法行為に該当するものと認められる。」として、慰謝料130万円を認めました。
②東京地判平成26年3月28日
「被告は、原告以外に好きな女性ができたことを理由に、原告との婚約を一方的に破棄しているので、被告が、原告に対して、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことは明らかである」として、慰謝料200万円を認めた。
③東京地判平成27年11月17日
不貞行為は証拠上認められなかったものの、婚約者以外の女性に性交渉を求めるメールを送っていたことについて婚約が解消されるに至った原因として不法行為が成立するとし、慰謝料50万円を認めた。
④佐賀地判平成25年2月14日
「原告と被告は、婚約が成立したのであるから、正当な理由のない限り、将来結婚するという合意を誠実に履行すべき義務を負っているから、それぞれ婚約相手と異なる人物と性的関係を持たないという守操義務を負っていたというべきところ、被告は婚約成立後、Aという名前の女性と性的関係を持ち、しかも、結納後も、当該女性に対し執拗に性的関係を持つことを執拗に求めていたのであるから、婚約相手である原告の被告に対する信頼を裏切ったことは明らかである。原告が、被告の不貞の事実を婚約中に知ったのであれば、被告との婚約を破棄し、結婚式を挙げることはせず、新婚生活を送るために準備もしなかったであろうこと、さらに、被告の不貞により多大な精神的苦痛を被るであろうことは当然に予測し得たというべきである。」として、慰謝料200万円を認めました。
⑤東京地判平成24年7月26日 ※貞操義務は否定
「本件婚約関係破綻の主な原因は、本件婚約成立後も、被告が、原告以外の男性との男女関係を継続してきたことにあるものといわざるを得ない。男女が婚約した場合は、婚姻に至った場合とは異なり、互いに貞操義務まで負うものではないが、婚約は婚姻予約であることからすれば、婚約当事者は、以後、互いに婚姻に向けて誠実に努力すべき義務を負うことになる。してみれば、婚約後、その一方当事者が、同義務に違反し、相手方以外の異性と男女関係を結ぶことは相手方との将来の婚姻を障害させる重大な背信行為であるから、これにより婚約が破綻した場合、当該背信行為を行った婚約当事者は、相手方に対し、損害賠償責任を負うものと解される。」として、慰謝料200万円を認めました。
(2)不貞相手の責任について
上記大阪高判は、婚約者との不貞行為に加担した相手方は他方婚約者に対して共同不法行為者として不法行為責任を負うと判断しています(前掲大阪高判)。
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